METAL GARNISH

開発秘話と仕様解説


着想〜製品化まで1年弱を要した【メタルガーニッシュ】について、設計・開発・デザインを手掛けた私・ハタナカがいつもの調子で解説いたします。相変わらずボリュームたっぷりなので、長文アレルギーの方は写真と小見出しだけでもご覧ください。


01:開発に至るまでの経緯

「食わず嫌い」は罪である

インスタで見かけた1枚の写真。レトロアクティブのメーターに他社さんの金属カバーを組み合わせて装着されたその写真をみつけた瞬間「なにこのコクピット感!レトロアクティブと超絶マッチしている!! 」と、大きな衝撃を受けました。そもそも、純正ガーニッシュのあのブラックヘアライン調が気に入っていて、あの部分をカスタムすることに対してはやや否定的でした。しかしそれがたった1枚の写真で「単なる食わず嫌いだった」ことに気づいてしまったのです。ひとつの完成形だと思っていたレトロアクティブメーターに、さらにクールにできる余地が残っていたとは…、という大発見。しかし市場にあるのはプレス成形品ばかりで、「エッジが緩い」などの弱点があります。安価でお手軽なのですが、どうしても僕の好みからは少し遠い。

 

理想のものを「自分用」に作ろうと決断

ならば「理想の金属ガーニッシュを自分で作ってしまえ」というのがスタート地点です。元々は「自分用に」と製作したのがレトロアクティブの始まりでしたので、それも自然な流れだったように思います。かくして「自分のジムニーのためだけ」に、コスト度外視で究極の理想形を追求する旅へと出発したのであります。 



02:妥協なき仕様

純正の〝美味しいところ〟は残す

純正ガーニッシュに施されているヘアラインの意匠はとても精緻で美しく、軽自動車の内装としては異例の仕様です。ヘアライン部と非ヘアライン部の境界線のあしらいも極めて美麗で、設計者さんに大きな拍手を贈りたいほど。そこで理想の自分用ガーニッシュは「このヘアライン部をステンレスパネルにそのまま置き換えた」ような仕様を目指しました。つまり、美麗な「境界線のあしらい」を寸分違わず残すのです。もちろん、艶やかなピアノブラック仕上げの側面を残したい意図もあります。

 

禁断の「レーザー測定」発動

いかにも「後付けしました」という痕跡を一切残さず、あたかも「純正?」と思わせる仕様にしたい。運転中、常に視界に入る部分なので一切の妥協はできません。巷に溢れる「被せてあります」「切った貼ったしてこしらえました」のあの感じ、僕には耐えらない。そこで純正ガーニッシュのパラメータを厳密に採寸するため、今回は三次元測定業者さんの手を借りました。従来はデジタルノギス片手に割り出しますが、この微妙な曲線の集合体はとても僕の手には負えないと判断したからです。微妙な隙間やズレを許容する「ナンチャッテDIYカスタム」で良いならそれなりにやれるでしょうが、僕は絶対にイヤです。



03:ヘアラインパネル部

平滑さを徹底追求

取得した三次元測定値を元に図面を引き、ヘアライン入りのステンレスパネルをレトロアクティブ独自の手法にて厳密にカット。端面のバリなどは皆無で、プレス品のような波打ちも無く平滑、どこもかしこも「ピシッ」としています。こいつをそっと純正ガーニッシュに貼り合わせてみると…、笑ってしまうほどピッタリです(恐るべし三次元測定屋さん。さすが文化遺産の調査までも手掛けるすごい技術力)。ちなみにこのパネル、最も狭いところで0.8ミリなので貼り合わせの際に取り扱いを誤ると即座に曲がってしまい、その瞬間に廃棄処分となる恐ろしい仕様です(これはレトロアクティブ側での作業です。念のため)。

 

拘りの末に導き出した厚み

厚みに関しては当初0.3ミリで検討していましたが、最終的に0.5ミリとしています。純正ガーニッシュとの親和性を考えれば「薄ければ薄いほど良い」のですが、純正ガーニッシュへの固定の際にわずかな波打ちが発生してしまうリスクを考えて0.5ミリとしました。実は0.3ミリ版の試作を装着しての夜間走行時、街灯が反射した時に見つけたわずかな波打ちがどうしても気になってしまったのです。〝妥協するくらいならやらないほうがマシ〟という信念で長年やってきた私としては当然の判断です。



04:リング部の形状

【TYPE-A】定番の鏡面ポリッシュ

メタルガーニッシュの肝となるのがリング形状。まず採用したのが従来のコンプリートキットに付属のあのラウンド形状のリングです。一枚のステンレス板をスピニング加工し、鏡面ポリッシュを施しているので質感・輝きとともに最高峰の仕様です。レトロアクティブのメーターのために産み出した形状なので、自信を持って採用できます。今回のメタルガーニッシュではこちらを【TYPE-A】としてラインナップしました。

 

【TYPE-B】重厚感と立体感

その昔コスト面を理由に諦めてしまっていた「ステンレスビレット(削り出し)仕様」のリングを【TYPE-B】としてラインナップしています。無垢の巨大なステンレスシャフトから削り出されており、そのほとんどが削りカスとして消えていきます。とても贅沢すぎるため、泣く泣く諦めた理由がお分かりかと思います。精密部品加工用の特殊切削刃を用いることにより、ステンレス(SUS304)本来の鈍い光沢と鋭いエッジを一切の後処理なしで実現しています。何よりこの重厚感と存在感はまさにジムニーのためにある、そんな気さえしてきます。旧車バイクのリング意匠をモチーフにしたこの形状、まさにネオクラシカルの極みです。



05:化粧ボルト部

「ダミーボルト風」からの脱却

純正ですっかりお馴染みのダミーボルト部。厳密には「ダミーボルト風意匠」です。何かを固定する意味があるのが「固定ボルト」、意味もなく締め込んであるだけなのを「ダミーボルト」と呼ぶのであれば、この純正のものはボルトとしての機能さえない単なる〝ボルト形状の成形品〟ゆえに「ダミーボルト風意匠」となるわけです。メタルガーニッシュ開発当初、ここをヘアラインパネルで覆ってしまうか否か悩みましたが、やはり現行ジムニーのアイデンティティともいえるこの意匠は残すべきだとの結論に至りました。ただし「風」ではなく、ヘアラインパネルの一部を固定する役割を持たせることにより「ダミーボルト風」でも「ダミーボルト」でもない正真正銘の「固定ボルト」へと昇格させています。

 

汎用ボルトならではの味わい

この固定ボルトには特殊設備用の低頭六角ボルトを採用していますが、そのまま使用するとメーターユニット本体と干渉してしまうため1本ずつネジ山部分を切断加工して採用しています。なお、汎用品ゆえに天面に微細な擦れなどがありますが、実用品としての意味合いから特に表面処理は施していません。もしこのボルトさえも美麗なものを、という方は後の項にてご紹介する「謹製ボルト換装オプション」をご用命ください。



06:決断

生産難度は特A級

果たして完成した「自分用」のメタルガーニッシュ。こんなのどこにも売ってないという自負、そして変態的拘りの具現化。大満足です。しかし車業界のある人物から「これ、欲しがる人いるよハタナカさん。レトロアクティブつけてる人はもちろん、純正メーターで乗ってる人も」と悪魔の囁きが…。とことん練り上げた仕様のこの逸品、確かに欲しいかもしれない。でも、量産はあまりにもキツい。製造プロセスの概要は、ヘアラインパネルをカット→ズレないように純正ガーニッシュへ仮固定→高価な業務用グルーでリングを慎重に固定→化粧ボルトの位置合わせと固定…。かなり神経を遣うプロセスの連続です。ズレてはNG、はみ出したらNG、変形NG、小傷NGの世界です。もはや工芸品レベル。

 

「メーターと共にどうぞ」と気軽には言えない

もし販売するとして、材料原価と加工賃、純正ガーニッシュ調達費に組み立て費を考えるとなかなかの価格水準になることは明らか。そもそも量産販売を念頭に置いて開発していないのですから当然です。仮にこのこだわりの仕様に妙味を感じてもらえたとしても「ポテトもご一緒にどうぞ」のノリで気軽には言えないでしょう。プレス成形品でよければこれの10分の1以下の値段で買えてしまうのですから。



07:月産10基限定となります

職人としての矜持

ご存知かもしれませんが、私はプロダクトデザイナーである一方、造形家としての顔を持ちます。神経をすり減らしながら行う細かな作業を全く苦にしません。しかしそれは「芸術」という、いわば答えのない世界の追求のためだからできることであって「仕事」としては疑問符がつきます。今回このメタルガーニッシュの販売を決めたことはつまり、そのテクニックと知見を〝仕事として振るう〟ことを意味します。「欲しい」と求めてくださる方々のために、レトロアクティブ代表の私自身が職人として手を動かします。これだけは他人に任せられないし、任せても不可能な作業です。月産10基であればなんとか戦い抜ける、そう自分に言い聞かせた末の大きな決断です。

 

手作り感ゼロの境地

とは言いつつも、手作り感を残すつもりはありません。自動車用の内装パーツにおいては「手作りの温かみ」などは感じさせてはいけない。これは長年変わることのない私の確固たるポリシーです。手作り感ではなく工業製品感、つまり人の手が全く介在していないかのような無機質さ。ライカもロレックスも、そのスマホだって人間が組んでいますが、そこに温かみなど感じることはないのと同じです。



08:オプションの説明①

「フード施工済」とは?

写真のように、標準設定はガーニッシュ左右それぞれ単体を化粧箱に入れてお届けとなります。オーナー様ご自身のジムニーの純正フードを取り外し、さらに純正ガーニッシュを取り外した後にこれと交換する形です。「フード施工済」とは、レトロアクティブ側で新品の純正フードを入手し、そこにメタルガーニッシュを丁寧に組み付けた状態でお届けするものです(下の画像参照)。届いたら直ちに装着が完了します。純正フードを残しておきたい、あるいは既に導入済みのレトロアクティブ製メーターリングつきフードを残しておきたい、という方向けの設定です。

 

器用か不器用か

「フード施工済」を設定したもうひとつの理由。それは、純正ガーニッシュとの交換作業に少しコツが要るためです。取り外すのにひと苦労、メタルガーニッシュを組み付けるのにまたひと苦労を要します。これは純正フードに傷をつけぬよう、なおかつメタルガーニッシュに無用な力を加えて破損しないよう注意が必要となるからです。そこで、事前にこの交換作業のシミュレーションができるように作業説明のページを用意しています。「フード施工済」にするかどうか迷ったらぜひ一度お試しください。

▶作業説明を見る



09:オプションの説明②

謹製ボルト換装オプション

「汎用ボルトらしさを残した風合い」か、「ひと手間加えられた化粧ボルトの美しさ」かー。こればかりは好みの問題としか言えませんが、もし後者の考えが勝るような方のために【謹製ボルト換装オプション】を設定しています。汎用ボルトの天面を1ミリ削り落とし、平滑さとステンレス本来の輝きを強調しています。切削作業の一部を外注している職人さんは僕のこんなリクエストに「実に変態だな。やれと言われればやるけど、すごい神経を遣わんとな」と半泣き状態。でも「あんたも好きだねえ」と、いつもの調子で快諾してくれる職人さん、心からありがとう。

 

絶対に回すべからず

ヘアラインパネルを固定する役割を持ちますが、最終的には緩み止めのため建築用強力グルーでガッチリ固めています。ですので、この謹製オプションボルトで露わになっている「六角の向き」を4本全て揃えたくなっても決して回さないでください。締め込んだ瞬間にヘアラインパネルが変形してしまいます。もし4本全て六角の向きまで揃えたいと言う場合は、固定前に調整可能ですので事前にその旨お申し付けください(費用別途)。



10:購入特典について

ご購入特典(期間限定)

今回のメタルガーニッシュの発表に際し、センターパネルをピクセル表示式にした【Pixel Edition】の新規設定や、リピートユーザー様向けの単品販売アイテムの設定など、すべてのレトロアクティブ製品のラインナップを再構成しました。従来は一部のパッケージでのみ付属していた「ステンレスビレット・ダイヤルノブキャップ」のオプション設定もそのひとつ。そこで、メタルガーニッシュをご用命くださる全ての方にこのダイヤルノブキャップを無償進呈させていだこうと思います。

 

メタルガーニッシュとの親和性

この解説ページの先頭に掲載した試作開発時の写真。ダイヤルノブキャップのおかげでメタルガーニッシュの美しさ、メカニカルさ、上質さをより一層引き立ててくれていることがわかります。つまり、「メタルガーニッシュと一緒にダイヤルノブキャップも必ず付けてね」というメッセージでもあります。想像してください、先頭の画像のダイヤルノブ部分が、純正の樹脂のままだとしたら…。ここだけプラスチッキーだと興醒めですよね。開発者としては、メタルガーニッシュとステンレスノブキャップはもはや「一心同体」という位置付けです。ぜひこの機会にノブカバーを無償でゲットしてください(仕様解説へ)。



11:品質に関する大切なお話

純正部品の品質

品質のコントロールは作業者の努力次第で可能ですが、今回の製品で使用する「純正ガーニッシュの品質」だけは制御ができません。部販さんから商社さんを経由して調達するのですが、どうしてもその品質にバラツキがあるのです。具体的には「周囲のピアノブラック仕上げの部分」で、厳密にみると「微細な擦れ跡」が初めからあるのです。通常の使用時には全く気にならないのですが、角度を変えながら光を当てて検査するといずれの個体にも少なからず「擦れ跡」があることがわかります。この問題が気になった私は、SNSのフォロワーさんの中で「納車直後」の方にお願いして該当箇所の検査を実施。検査対象8台中の8台とも、新車時からこの「擦れ跡」があることが確認できました。繰り返しますが、通常の使用時(運転中か否かに関わらず)にはまず気になりませんし、であるからこそメーカー側も問題にしていないのだと思われます(現在、公式にこの「擦れ」に関する質問状を出しています)。ただ、このメタルガーニッシュが皆様の手元に届いて箱から出し、細部をじっくりと眺めるという必然の行動の中でこの「擦れ」に気がつくという場面が容易に想像できます。その際にもしこの純正部分の擦れが気になった場合でも「新車からそういうもの」としてご理解をよろしくお願いいたします。

▶微細な擦れの拡大画像



12:納期について

月産10基ということは…

製品ページにおいて[カートへ追加する]ボタンの上に「ただいまのご注文の場合:**年**月*旬までにお届け」と表示していますが、メタルガーニッシュへのご注文10件ごとに翌月以降へと表記が変わっていきますので都度最新情報のご確認をお願いいたします。ジムニーの納車まで1年や1年半、長い方で2年待ったという方もいらっしゃいますので、それに比べたら数ヶ月程度は許容範囲内かもしれません。ただ、例えば海外の代理店などからまとまったオーダーが入った場合など、あっという間に半年待ちから1年待ちになる可能性もゼロではないので、「すぐにでも装着したい」という方はその点に関し予めご了承ください。今後は受注状況をみながら生産体制を整えて、月産30基くらいまでいけるよう努力するつもりではおります。

 

メーターと同時購入の場合のご注意

メーターキットは2週間から1ヶ月程度でお届けできますが、もし同時にメタルガーニッシュもご用命いただいた場合の発送時期はメタルガーニッシュの納期に準拠します。つまり「メーターだけは先に欲しい」という場合はご面倒でも2件のオーダーに分けてそれぞれご注文をお願いします。



おわりに

「夜の眺め」も変わります

針や目盛などメーター自体は奥まった位置にあるので、レトロアクティブを装着していても夜間においてはその金属質感を充分に楽しめません。しかし前面に露出しているメタルガーニッシュは、ふとした街灯の光を拾って妖しく輝いてくれます。「ギラっ」となるあの瞬間、写真では伝えきれないのが歯痒いです(「写真より本物の方が数倍カッコイイ」といつも言われますが、言い換えると私の撮影技術が未熟ということです)。

 

ストロングザボーガー的興奮

先にも述べましたが、レトロアクティブのメーターキットは、あれをひとつの「完成形」と位置付けていました。それ以上も以下も無い、と。しかし、メタルガーニッシュと合体させた時の姿を目の当たりにした瞬間の興奮はまさに「ザボーガーがストロングザボーガーになった瞬間」と同等もしくはそれ以上でした(うまく伝わるかな…)。あるいは「ファミコン本体にディスクシステムが合体した瞬間の興奮」もそれに近いかな。この興奮をぜひみなさまと共有したいので、レトロアクティブ装着済みのオーナーさんはぜひお財布と相談しながら装着をご検討ください。もちろんレトロアクティブがついていなくても単体で装着できますので、クールなコクピットの演出にぜひともご検討をよろしくお願いいたします。



 

 

最後までお読みくださりありがとうございました。この後やってくるであろう「特A級難易度の加工作業」を思うと恐ろしいのですが、僕と同じジムニーを愛するみなさまが求める「カッコいいコクピット」「運転が楽しくなる景色」の実現のために全力を尽くします。写真では伝わりきらない至高の佇まいを、ぜひその眼で味わってください。必ずやご満足いただけると確信しております。

 

2025年4月吉日

レトロアクティブ代表・ハタナカマコト